Little Butterfly
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深い深い森を抜けると、広く拓けた花畑がある。

その花畑には魔法がかかっていて、冬になっても枯れる事は無かった。

初めて来た時、きっと天国ってこんな所だ、と思った。

そんな花畑に守られる様に、ソレはあった。

「また来たよ…父さん、母さん…」

ここに来るのは二度目になる。

前に来た時はシリウスに連れて来て貰った。

しかし今回ハリーはシリウスに告げずにここへ来ていた。

試したいことがあったから。

両親の墓の前に座り、ハリーは囁いた。

「…僕ね…シリウスの事が好きなんだ…」

夏休み初め、ハリーの心は幸せと感動に打ち震えていた。

毎朝のおはようのキスと、毎晩のおやすみのキス。

毎日が新鮮で、

毎日が幸せ。

初めて、実感できる『家族』を持った。



でも…

そう思ってたのは僕だけだったのかな…ーー

ねぇ、シリウス…?

















「ハリー、すまないが今日も出かけなくてはならないんだ…」

ある日の朝食で、シリウスは申し訳なさそうに言った。

「うんわかった。気をつけてね、シリウス」

まただ…。

本当は、行って欲しくなんか無いのに…。

「本当にすまない…。いつも、親らしい事してやれなくて…」

ほら…。

そんな辛そうな顔するから、何にも言えなくなっちゃうんだよ。

「気にしないでよ、僕シリウスと暮らせてるだけで幸せなんだから!」

これは本当。

でも、もっと一緒に居て欲しいのも本当。



いつからかな、僕は毎朝うそつきになってしまう。

本当の事言えないのって、結構ツラいんだけど…。

会いに行く相手も、いつもの事。

言わなくても判るよ。

「ルーピン先生によろしくね」

毎朝の、おなじみの笑顔で見送る。

「ああ」

シリウスってば、すっごく嬉しそうに笑うんだね…。

もしかしたら、僕の話をする時よりも…?



だめだ…。

どんどんマイナスな方に考えちゃう…。

僕らしくないよ。

シリウスはハリーがシリウスの事を好きだとは当然知らない。

夏休みが始まってからはしばらく二人きりだったが、最近シリウスはしきりに出かける様になった。

どうやら、これからの「例のあの人」への対策を相談しに行っている様だった。

でも…さすがに夜遅くまで帰って来ないとハリーにも寂しさは募る。

ハリーが寝てしまった後に帰って来て顔を合わせたのが朝食の時だけ、という時もしばしばあった。

そんな時の夕飯は当然一人きりで、長い間待って一人で冷めたシチューを啜った時もあった。

でもそんなこと、シリウスは知らない。


気付いていない。

きっと…。

明日の誕生日も、一人きりなんだろうな…。

でも…期待せずにはいられないんだ。

もしかしたらって…。

シリウス…。

次の日もシリウスは出かけるつもりだった。朝食ではいつも通り申し訳なさそうに、

「今日も出かける」とだけ言い残した。

ハリーの誕生日だという話題は一度もでなかった。

まさかシリウスが自分の誕生日を忘れてはいないだろうとハリーは思った。

となれば、シリウスは申し訳なくて話題になんかできない、と思ったのだろうか。

そんな気を使うヒマがあるなら、今日くらいはキャンセルしてくれればいいのに…。

ハリーは心の中でだけ呟く。

そんな願いも、叶う事は無いと半分諦めていたが。

ピンポーン!



「?誰だろ?」

ハリーがドアを開けると、そこにはルーピンが立っていた。

「(あ…)」

ハリーの心に冷たく、重いものが落とされた気がした。

大好きだけど、ハリーにとって今一番会いたくない人。

「やあハリー今日は」

綺麗な笑顔であいさつされる。

それがハリーには、まるで自分の醜い嫉妬が見透かされている様で恐くなった。

「おはようございます…ルーピン先生…」

かろうじて、それだけ言う事ができた。

「何だリーマス来たのか」

「何だとはなにさ、

せっかくいつも来てもらっちゃ悪いだろうと思ってわざわざ迎えに来たのに」

そんな事を会話しながらも、二人の表情は楽しそうにしていた。

ハリーの心が矢が刺さった様にズキリと痛んだ。

「じゃあハリー、行ってくるよ」

「うん、行ってらっしゃい」

ハリーはでき得る限り平常心を装って、でかけるシリウスに手を降った。

ズキズキと痛む胸を掴み、隠しながら。





夜中の八時。

どうせシリウスはいないのだから、と、ハリーはたいして祝う様な夕食を作らなかった。でも今日は11時59分まで何が何でも待つとハリーは決めていた。

遅くなってもいいから、帰って来て…ー。

いつの間にかハリーはうとうとし始め、そのまま食卓につっぷして眠ってしまった。





気がつくと、一面花畑が広がっていた。

夢のせいか色彩がまったく無く、すべてが灰色の世界だった。

「ここって確か…」

『ハリー…ここが君の両親が眠っている所だ…』

沈んだシリウスの声が、突然ハリーの耳に響いた。

ハリーが後ろを振り向くと、この間シリウスと一緒に墓参りをした時の情景があった。

墓の前にたたずむハリーとシリウスがいる。「そうだ…この間二人で行ったんだった」

このところ、シリウスが不在だという事の方にばかり頭がいっていてハリーはこの時の事を忘れかけていた。

『…』

記憶のハリーが知らず知らずのうちに涙を流していた。

『…あ』

一歩遅れて、自分の頬を伝う物に気付く。

『ハリー…』

シリウスが後ろからハリーを優しく抱きしめた。

『…っふ…うっ』

記憶の中のハリーの瞳からとめどなく涙が溢れた。

目の前に両親が眠っているという現実と、背中から受ける暖かい優しさによって。

ボロボロと零れる涙は朝露のように足元の花花を濡らした。

『…すまないハリー…これ以上辛そうな君は見たくない…』

そう言うとシリウスはぼそぼそと何事かを呟いた。

その途端、ハリーの身体がシリウスの腕の中へ落ちた。

「そうか…あの時眠っちゃったのはシリウスが魔法をかけたからだったんだ…」

この日の記憶が途中までしか無かったのはその所為だったのか、とハリーは理解した。

『…ハリー』

シリウスは辛そうに顔をしかめ、腕の中で眠るハリーをなおも強く抱きしめる。

そして、意識の無いハリーに深く口づけた。

「!(シリウス!?)」

今、目の前で起こっている事は本当にあの日の事なのか。

ハリーには訳が判らなかった。

もしかしたら、自分に都合のいい夢を見ているだけかもしれない。

ハリーはそう思わずにはいられなかった。

『私だけは…何があっても君を離さないから…』

まさか、自分が意識を失った後にこんな事があったなんて…。

本当に…?

ハリーは今すぐ、幻でもいいからシリウスに駆け寄りたいと思った。

『君だけを一生愛すとここに誓うよ…ハリー…?』

「…え?」

今シリウスは何て…。

突然

記憶の花畑に強い風が吹いた。

花は散り乱れ、あたりが何も見えなくなる。

ー嫌だ!

「っシリウス!」

ハリーの叫びをかき消し、意識は閉じていった。






「…ん」

目が覚めると、いつものリビングのテーブルの上だった。

「……今の」

今の夢は何だったのだろう。

ちらっと時計を見るとハリーは愕然とした。

ちょうど針が12時ジャストを差していた。

やっぱり、シリウスは帰って来なかった…。

「…っなんで」

料理は冷めていて。

泣きそうになった。

「…シリウス…」

時計の針が12時1分になった。



その時。

ボンッ!!

烈しい爆発音と共に、暖炉からシリウスが現れた。

「ハリー!すまない、遅くなってしまった」

シリウスの両手には幾つもの袋が抱えられていた。

「…あ」

「ハリーのプレゼントを買いにダイアゴンからホグズミートまで行っていたら遅くなってしまったんだ…」

ー僕のプレゼントを買いに…?

そんな事の為に遅くなったっていうの!?

「…っシリウスのバカ…!」

ハリーの瞳から涙が零れた。

大粒の涙がボロボロと零れる。

ハリーは初めてシリウスに怒鳴った。

「ハリー…すまない」

シリウスはおろおろしていた。

バカと言われた事とハリーが泣き出してしまった事に。

「そういう…!優しい事するからっ!シリウスの事好きになっちゃうんじゃないか!」

涙を流しながらハリーは叫んだ。

今まで言いたくて言えなかった事が、口を急いて出て来る。

「毎日毎日…!夜遅くに帰って来て、僕がどんなに寂しい思いしてるか解ってるの!?」

「ハリー」

シリウスがハリーを抱きしめる。

それでもハリーの抗議は治まらない。

「僕はいつもルーピン先生に嫉妬しちゃうんだ…!仲がいいのは解るけど、独りぼっちにされる僕はどうなるのさ!?」

「ハリー…私が悪かった…もう止めてくれ…」

「…ずるいよ、僕だってシリウスの事、好きなのに…!

僕にはシリウスだけなのに!」

ハリーの言葉が途切れた。

嗚咽の所為でもう言葉が出なかった。

あとはシリウスの腕の中で涙を流すことしかできない。

勢いに任せて出しきってしまった。

寂しいという事も、

シリウスのことが好きだという事も。

「ハリー聞いてくれ…私も、ハリーの事が好きなんだ、親代わりとしてでは無く、もっと深い意味で…。

…しかし、私には、正面から打ち明ける事ができなかった、君に嫌われる事が恐かったんだ…」

シリウスが抱きしめるので顔が真横にあり、シリウスの懺悔はハリーの耳もとで打ち明けられた。

「…だが私は君が寂しがっている事に気付いてやれなかった、すまないハリー…!」

シリウスが泣きそうになっているのがハリーには解った。

押し殺している声が本当に切なくて…。

「っう…シリウスっ…本…当に?」

しゃくり上げながらハリーはシリウスの顔を見上げた。

頬が涙の所為で濡れ、鳶色の瞳が赤くなっていた。

「本当だ。

君は憶えていないだろうが、私はジェームズとリリーの墓前で君を愛すと誓ったんだ…

何があっても君を離さないと…」

そう言ってシリウスはハリーに口付けた。

今度ははっきりしている。

意識の在るキスだった。

口を離すとハリーが、「…誕生日、2分オーバーしたけど許してあげる」

と微笑んで、今度はハリーの方から口付けた。

















「ハリー」

両親の墓前でしゃがみこむハリーに、背後から声がかけられた。

「ここだと思った」

そう言ってシリウスがハリーの横に立つ。

「…よかった。

シリウスが、僕のこと見つけてくれて…」

「?どうしたんだ?

何にも言わずに出かけるなんて…」

ふいにハリーが立ち上がり、シリウスと向かい合った。

「今ね、お父さんとお母さんに言ったんだ、シリウスが好きだよって…」

シリウスは墓を眺め、うつむいた。

「…そう…か」

「…だからね?

シリウスに、もう一回誓って欲しいんだ…僕の意識の在るうちに

ここで…」

そう言って微笑んだハリーの後ろには、咲き乱れた花びらが暖かそうに舞っていて。

シリウスはちらりと、墓を見て、微笑んで、ハリーに向かって口を開いた。







END














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